こんにちは。
蓮見圭一さんの『水曜の朝、午前3時』はもう10年近く前に読んだ小説で本棚に眠ってました。
良い小説だという印象でしたが、詳細は忘れてましたが、再読してみましたのでブログします。
水曜の朝、午前3時のあらすじ
45歳の若さで、脳腫瘍のため四条直美という翻訳家が亡くなったという書き出しで物語は始まります。
四条直美は娘の葉子に、亡くなる前に長いカセットテープを送っている。
葉子の夫である’僕’ は幼馴染であったが、大人になって再開し結婚。
カセットテープの内容をおこしてゆく部分は、直美の語りで彼女の人生が振り返られてゆく。
直美は葉子に何を伝えたかったのか?
直美の人生
直美は昭和22年生まれ。
祖父がA級戦犯という家庭で育つ。
1969年にお茶の水女子大学卒業して出版社に勤める。
ここまでは、親の言う通りの人生。
許嫁も居て、近く結婚することは固定路線だったが、ここで直美はこのレールから外れたい欲求に駆られる。
1970年の大阪万博のコンパニオンに応募して、合格。
半年間、大阪に移りすむことになる。
この時のコンパニオンは、半分芸能人の様な華やかな扱いだった様です。
この万博時代に、直美はエリート外交官の臼井と恋におちて、将来を誓い合う仲になる。
しかし、あることがきっかけで破局。
東京に戻って、見合い結婚し、葉子が生まれる
その後、葉子は翻訳家としてキャリアを積むが、病に倒れるという人生。
直美は葉子に何を伝えたかったのか?
直子はそれなりに幸せな結婚生活だったのだと思います。
夫は、新聞記者で仕事中心だったが、子供にも恵まれた。
自分もまずまず翻訳家としてやっていけていた。
自分の人生を振り返った時に、どこが大きな転機だったか考えた時に、臼井との別れだったと直子は思った。
一生を左右する様な出来事がおきるのはせいぜい20代までで、あと人生はその復習か、つけ足しにしかすぎない。では、私は一体いつ人生に直面したのでしょう? それは23歳からのほぼ1年間、すなわち1970年の春から翌年にかけてのことだったように思います。
水曜の朝、午前3時
では、なぜ臼井とのことを葉子に伝えたかったのか?

留学中で、これから一生を左右する様な出来事がおきるであろう、葉子に判断を誤るな、と言いたかったのか?

そんな、単純な思い出はなかったと思います。
直子は、臼井との別れも決して後悔はしてなかった。
直子は、人生は宝探しだと言います。
40年以上の人生で、私はどんな宝物を見つけたのでしょう?
私は臼井さんを見つけ、夫やあなたを得た。ーーーー
他の人が聞けばがっかりするかもしれないけど、それだけでも大したものだと自分では思っているのです。
水曜の朝、午前3時
夫と結婚したことも、決して後悔してないし、臼井も最後まで宝物だったと思っていた。
葉子にも、これから自分の宝物を探して、後悔ない人生を送って欲しいと思ったのだと思います。
最後に、葉子にアドバイスしてます。
迷った時には急がず立ち止まりなさい。ーーーー
何にもまして重要なのは内心の訴えなのです。ーーー
耳を澄ましてじっと自分の声を聞くことです。歩き出すのはそれからでも遅く無いのだから。
水曜の朝、午前3時
全体をとおして
小説のはじめと最後に葉子の夫である僕に直子を過去形で語らせてる。
そして、最後に僕が55歳になった臼井に会って、直子のことを語らせている。
直美さんは自分の気持ちを隠しきれない人だった。とても頭のいい人だったけれど それ以上に感情の人だった。 本当に、いまにも爆発してしまいそうな感情の持ち主でね。それが彼女の一番の魅力だった。 直美さんは、暇があれば誰かの悪口を言っていた。それが激烈で、いちいち的を射ているんだ。それでいて、ものすごく可愛らしいところもあった。そんな女に会ったのは初めてだったし、会うたびに圧倒されたよ。 少なくとも俺にとってはそうだったし、君だってそう思っているんだろう?
水曜の朝、午前3時
若くして亡くなった直子という一人の女性の人生を、読者として郷愁と共感をもって捉えることができます。
宝物を得て短い人生を閉じた一人の女性を見事に描いている、良い作品だと思いました。